関係性の近い方が亡くなられた場合、民法の規定に従い法定相続人に該当するときは、遺産を相続することになります。しかし相続では被相続人の義務も引き継ぐことになるため、借金を多く抱えていた場合には相続が大きなリスクとなります。
そんなときは「相続放棄」を検討します。相続しないという選択を取ることで権利も義務も一切引き継ぐことはなくなるのですが、その相続放棄をするためには何をすればいいのでしょうか。この点を当記事で解説していきます。
相続放棄の効果
相続に関するルールは民法という法律に定められており、相続放棄に関しては「相続放棄をすることで、その方は、はじめから相続人にならなかったものとして扱う」とする旨が規定されています。あまり馴染みのない手続かもしれませんが相続人の財産を守る上で重要な仕組みですし、実際に毎年20万件以上利用されています。
相続に関しては赤の他人同様の立場となりますので、借金の返済義務などを引き継ぐことはありませんし、逆に預貯金や土地なども取得することができなくなります。
ただし、相続人ではない第三者でも「遺贈」により遺産を受け取ることはできます。遺贈とは被相続人が生前作成した遺言書の効果として遺産を取得することをいい、「Aに宅地Xを遺贈する」などと記載されているときはAが相続放棄をしても宅地Xは取得可能です。
どんなときに相続放棄をする?
相続放棄をするのは、相続をすることにリスクがあるときです。上述の通り、多額の借金が残っているようなケースが代表例です。
ただし、残債務の合計より大きな資産が残っているときは相続放棄をすべきとはいえません。全体としては相続人にとってプラスになることもあるからです。そのため相続放棄を決断する前によく遺産の内容を調査しておく必要があります。
また、被相続人が事業を営んでおり多種多様な財産を所有しているときは相続すべきかどうかの判断が難しくなります。あちこちに財産があって、多数の債権者とも取引を続けている場合、事業の後継者でもない限り財産状況を整理するのにかなり苦労するでしょう。
判断がつかないときは「限定承認」も検討します。
限定承認は、弁済の責任を、相続した積極財産(プラスの価値を持つ財産)の範囲内に限って相続するための手続です。手続の手間が大きいですが、リスクを抑えることができます。
なお、限定承認も相続放棄もいったん手続を進め出すと、その後取り消しが基本的にできません。そのため慎重に判断しましょう。
相続放棄をする方法
相続放棄をするには所定の手続を行う必要があります。相続を制限なく受け入れる(単純承認)ときは何ら手続を行うことなく自動的にその効果を得られますが、相続放棄または限定承認をするときは自ら行動を起こさないといけません。
※司法書士などの専門家に代行を依頼することは可能。
家庭裁判所での申し立て、必要書類の準備、費用の準備を進めていきます。
家庭裁判所への申述が必要
相続放棄をするには家庭裁判所に対してその旨を申述しないといけません。市町村役場などの窓口ではありません。また、家庭裁判所は全国にありますが「亡くなられた方最後の住所地を管轄にしている家庭裁判所」で行う必要があります。申述人自身の住所は基準になりません。
そして申述といっても窓口で直接伝えるわけではなく、「申述書」を作成して書面でその意思表示を行わなければなりません。そこで次の情報を記入して申述書を完成させましょう。収入印紙の貼付も必須です。
- 申述人の記名押印
- 日付
- 申述人の情報:本籍、住所、氏名、生年月日、職業、被相続人との関係
- 法定代理人等の情報:親権者・後見人等の別、住所、氏名
- 被相続人の情報:本籍、最後の住所、死亡当時の職業、氏名、死亡日
相続放棄の必要書類
相続放棄の申述書を作成することはもちろん、家庭裁判所への申述の際には他にもいくつか備えておくべき書類があります。
状況により提出が求められるものが変わることもありますが、基本的には次に挙げるものが必要書類・必要物となります。
- 身分証明書(保険証や運転免許証など)
- 印鑑
- 申述人の戸籍謄本
- 被相続人の戸籍謄本(申述人と同じ戸籍なら不要)
- 被相続人の住民票除票(または戸籍附票)
- 収入印紙800円分
- 郵便切手(各家庭裁判所で要確認)
戸籍謄本は相続人であることの証明で使われるため、法定されている相続人の“順位”によって必要な数が異なります。
順位の高い人物から優先的に相続人になれますので、例えば第3順位にあたる被相続人の兄弟姉妹が申述をするなら「第2順位(被相続人の両親等)の相続人が亡くなった事実がわかる戸籍謄本」が必要です。代襲相続があるときも「被代襲者が亡くなった事実がわかる戸籍謄本」を用意しておかないといけません。
期限は相続開始から3ヶ月以内
相続放棄の手続で特に注意すべきは期限です。
法律上、相続放棄をするには「自分に関係する相続開始の事実を知ってから3ヶ月以内」に申述をしないといけません。
※限定承認も同じ。
単に失念していて期限に間に合わなかったときは相続放棄が認められなくなる可能性が高いです。期限を過ぎて放棄を認めてもらうには、どうしても期限までに手続ができなかった正当な理由が必要になるでしょう。
そのためこの3ヶ月以内という期限は厳守するよう心がけましょう。
間に合わないときは期間伸長を申し立てる
もし3ヶ月以内に間に合わないときでもそのままにせず、期間の伸長を家庭裁判所に申し立てるようにしましょう。
事情を説明して事前に間に合わない旨を伝えておき、期間の伸長が認められれば、本来の期限を過ぎても相続放棄をすることができます。
この場面においても伸長を求める申述書の作成・提出が欠かせません。
申立人や被相続人の情報を所定の書類に記載し、「申立ての趣旨」欄に期間の伸長を求める旨、「申立ての理由」欄に間に合わない理由を記載しましょう。
「申立ての理由」には例えば、「現在遺産の調査中ではあるものの、被相続人が事業を行っていたことから財産関係が複雑であって、単純承認・放棄・限定承認の判断がまだできない状況にある」といった事情を記載します。
相続で思わぬリスクを負うことにならないよう、相続放棄やその期間の伸長など、慎重に手続を進めていくようにしましょう。