ある方が亡くなると、その方を被相続人とする相続が始まります。被相続人が持っていた財産は遺産として相続人に承継されることになりますが、承継される財産には借金などの消極財産も含まれています。
相続放棄の可能性も視野に入れる必要がありますし、残された財産の内容を確認してからでなければ遺産分割協議も進められません。
そこで必要になるのが「財産調査」です。
このときの財産調査は相続人自ら行うこともできますが、司法書士に依頼することも可能です。当記事では財産調査を司法書士に依頼することのメリットについて紹介しますので、依頼費用との兼ね合いも考慮し、司法書士の利用を本格的に検討していきましょう。
相続開始後は財産調査が必要
被相続人が生前に所有していたさまざまな財産は相続人が取得します。配偶者と子どもが共同で相続するケースもありますし、複数の相続人が登場するときは遺産分割協議を行いその財産を分けていくことになります。
しかし、遺産分割協議を進めるためには、分割対象となる財産の内容が把握できていなければなりません。
また、多くの借金が残っている可能性もありますので、そのような場合には相続放棄も検討することになるでしょう。その検討においても、「相続を受け入れるのか、相続を放棄するのか」の判断を下すため、財産情報の整理ができていなければなりません。
そこで、相続開始後にしないといけないことの1つとして「相続財産の調査」が挙げられます。
調査対象となる財産は多岐にわたります。
調査が必要な財産の例 | |
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預貯金 | 取引のある銀行等の特定、金銭の残高などを把握する。 |
動産 | 動産とは、自動車や家財・家電、貴金属、美術品などの財産のこと。 |
不動産 | 不動産は、土地や建物のこと。所有権のみならず、不動産の賃借権や地上権等が含まれることもある。 |
有価証券 | 株式や公債(国債・地方債)、社債債券などのこと。 仮想通貨、投資信託、保険金積立金などの金融商品も対象。 |
消極財産 | 借金や住宅ローン、奨学金ローンなどのマイナスの価値を持つ財産のこと。 |
財産調査を司法書士に依頼するメリット
財産調査は相続人の方が自ら行うことも可能です。しかし多くの場合は司法書士など、相続に強い専門家に依頼して対応します。特に司法書士に依頼することには、次のようなメリットがあります。
- 調査に費やす時間が短くなる
- 調査や価額評価のミスが起こりにくくなる
- 不動産の相続登記など関連する手続もフォローしてもらえる
- 弁護士に依頼するより低コスト
各メリットについて、詳細を説明していきます。
調査に費やす時間が短くなる
調査を依頼すれば、当然ですが依頼主である相続人の方が調査に費やす時間が短くて済みます。
司法書士に依頼しない場合、次に挙げる作業をすべてご自身で対応しないといけません。財産調査に慣れていない方だと、多くの時間を浪費してしまうことでしょう。
- 預貯金の調査例
- 被相続人と取引のあった金融機関を特定する。残高証明書の発行を窓口または郵送により申請。普通預金、定期預金、投資信託の別を確認し、残高証明書の発行請求により残高を確認する。
- 不動産の調査例
- 登記識別情報および固定資産税の課税通知書を被相続人の自宅から探す。市区町村役場で固定資産台帳を申請。名寄帳も取り寄せるなどして不動産の見逃しがないことを確認する。不動産の存在が明らかになった後、名義人等の情報をチェック。さらに、物件の価額評価を行う。
- 有価証券の調査例
- 取引のあった証券会社等を特定するため、口座開設に関する書類、証券、残高通知書、取引案内書などの資料を探す。証券会社等に対して取引残高報告書の発行を請求する。
- 消極財産の調査例
- キャッシュカードや督促状などの書類を探す。または銀行口座の取引履歴にある引き落とし情報などから情報を掴む。取引先に残高の証明書を発行してもらう。
なかなか思うように進まず、調査が頓挫することも考えられます。しかし、相続に関連する手続には期限が設けられているものもありますので、のんびりするわけにはいきません。
例えば相続放棄をする場合、相続開始を知ってから3ヶ月以内に手続を済ませないといけません。取得した財産に関して相続税の申告も必要で、こちらは10ヶ月以内という期限が設定されています。相続税申告書を作成するためには遺産分割も済んでいないといけませんし、10ヶ月の期間内にすべき作業がたくさんあります。
司法書士に頼んで調査をすれば、期間にも少し余裕が生まれることが期待されます。
調査や価額評価のミスが起こりにくくなる
司法書士に調査を依頼することで、必要な手間や時間が削減されるだけでなく、「ミスが起こりにくくなる」というメリットも得られます。
業務として財産調査を行っている司法書士と、必要に迫られて初めて財産調査に対応する一般の方とでは、調査の精度にも差が出ます。相続財産に含めるべき財産を見つけられないまま遺産分割協議を進めてしまうこともあるでしょうし、各財産の価値も誤って評価してしまう可能性も高まります。
遺産分割協議の後で財産が見つかっても、基本的には、その財産について協議をやり直せば問題ありません。しかし、「その財産の存在を初めから知っていれば、当初の遺産分割はしなかった」との主張をする相続人が出てくる可能性があります。その場合当初の遺産分割が無効となってしまい、大変な手間が発生するかもしれません。
また、後から見つかったのが借金であった場合、より大きな問題に発展します。すでに相続放棄の期限を過ぎており、借金を受け入れないといけなくなる危険があります。
調査や価額評価のミスは、相続税の申告・納付においても問題となります。
正当な理由なく相続税申告書を提出しなかった、として「無申告加算税」を課されるリスク。意図的に財産を隠したり申告内容の偽造をしたりした、と評価されたときの「重加算税」を課されるリスク。納付期限に遅れたことに対する「延滞税」を課されるリスクが生じます。
不動産の相続登記など関連する手続もフォローしてもらえる
司法書士と連携することで、財産調査に関連する手続のフォローもしてもらえます。契約内容、費用次第でもありますが、例えば「相続人調査のための戸籍収集」、「相続放棄の手続についての相談」、「遺産分割協議書の作成」なども依頼することができます。
相続財産に不動産があるとき、司法書士を利用するメリットは特に大きくなります。司法書士は法律系の専門家であり、その中でも登記に特化したプロだからです。
不動産の名義変更は登記により行い、登記を行うことで不動産に関する権利が守りやすくなります。
逆に言うと、相続後の不動産登記をしないまま放置することで権利を奪われてしまうリスクが高まってしまいます。法改正により令和6年4月1日からは相続登記の申請が義務化されますし、「不動産の登記は必要なこと」と認識しておくと良いでしょう。
財産調査を経て不動産の存在が明らかになったとしても、司法書士に任せてこの登記申請を進めてもらうことができます。
弁護士に依頼するより低コスト
財産調査は、司法書士以外に依頼することも可能です。行政書士や弁護士などが代表例です。
どの専門家に頼んでも財産調査は実行できますが、相続人やその他関係者との間でトラブルが発生したとき、その和解に向けた交渉なども無制限にできるのは弁護士だけです。しかしこうしたリスクがない場合、司法書士に依頼したほうが、傾向としては低コストで済ませられます。
行政書士も弁護士に比べて低コストですが、司法書士に比べると対応できる業務の範囲は少し制限されます。登記に関する業務も対応できませんので、不動産がある場合の依頼先としては、司法書士が第一候補に挙がってくるでしょう。
財産調査を司法書士に依頼するときの注意点
上述の通り、相続に伴いトラブルが生じて訴訟にまで発展するような場面だと、司法書士で対応しきれないことがあります。そのため状況に応じて専門家は使い分ける姿勢が大事です。
また、依頼をする際は料金設定について事前に聞いておきましょう。その金額でどこまで対応してもらえるのか、予想外に後から追加費用が発生してしまわないか、よくチェックしておくべきです。
司法書士にもいろんなタイプがおり、相続を強みとするタイプもいれば企業法務に強いタイプもいます。そのためホームページ等を確認して、相続に関する実績がある方に相談すること、実際に対面したときの印象なども判断材料にして依頼先を検討することが大切です。