相続人が複数いる場合、亡くなった方の持っていた財産を分割して取得することになります。その分割方法等に関する話し合いは「遺産分割協議」と呼ばれます。
法的に有効な遺産分割協議を行うには相続人全員の参加が必要なのですが、協議内容を「遺産分割協議書」として書面に残すことまでは必須とされていません。
そこで、以下にまとめる遺産分割協議書を作成するメリット・デメリットを認識し、これを作成すべきかどうかを検討していきましょう。
遺産分割協議書を作成するメリット
遺産分割協議書を作成しておくことで様々なリスクを回避することができます。また、法的には必須でないものの、各種手続をスムーズに進めるためには実質欠かすことができない存在であると評価できます。
その理由を、以下の遺産分割協議書を作成するメリットとして説明していきます。
遺産分割の内容を正確に記録できる
遺産分割協議書を作成するメリットの1つに、「遺産分割の内容を正確に記録できる」ということが挙げられます。
遺産には多様な種類の財産が含まれています。それらを細かく分けていく場合、情報が錯綜し、誰が何を取得したのかがよくわからなくなるおそれがあります。
そのため、遺産分割のメモとして遺産分割協議書が役に立ちます。
作成された遺産分割協議書を確認すれば、誰がどの財産をどのように引き受けたのか、どうやって分割したのか、という情報が明確になります。
協議後のトラブルが起こりにくくなる
単なるメモとしてだけでなく、遺産分割協議書は、争いを解決する証拠としての役割も果たします。
遺産の帰属先を明らかにしておくことで、後々「その財産は私が取得したものだ」「そんな話し合いはしていない」などと問題を蒸し返されるリスクを回避できます。
もし訴訟まで発展したとしても、証拠として遺産分割協議書を活用することで、すぐに決着を付けられるでしょう。
逆に遺産分割協議書を作成できていない場合、誰かが遺産分割の内容に不満を抱き、「遺産分割協議は行われていなかった」などと間違った主張をしてきたとしても、この主張を退けるのが容易ではなくなります。
取得した財産の価値が、遺産分割後に下落した場合などにこうした問題が顕在化する可能性が高まります。
証拠としての効力をより高めるには、遺産分割協議書を公正証書として作成することがおすすめされます。
というのも遺産分割協議書は当事者間で自由に作成することができるものであり、形式的な不備が含まれている可能性もあります。結果、その書面自体の有効性につき争いが生まれることもあります。
一方で公正証書として作成する場合は、公証役場で手続を行い、公証人が直接の作成作業を行います。そのため形式的な不備が生じるリスクを下げることができ、証拠としての効力も高まります。
各種相続手続がスムーズになる
相続に関する手続は、遺産分割協議だけではありません。
遺産分割協議により取得した財産について、名義変更手続が必要になることもあります。
例えば土地や建物などの不動産を取得したときには、名義変更として登記申請を行うことになります。
また、預貯金の払戻しなどにも手続を要します。その他相続税の申告など、様々な手続を行うことがありますが、その手続の相手方としては、確かにその人物が当該財産を取得した人物であることを確認する必要があります。そこで、本人確認をするだけでなく、遺産分割協議により取得したという事実を知らないといけません。
その際の確認で使われるのが遺産分割協議書です。
手続時に遺産分割協議書のコピーなどを添付し、取得財産の内容を明らかにするのです。
逆にこれがない場合、相続人全員の署名押印が必要になるなど、手続の手間が増してしまいます。具体的にどのような対応を求められるのかはその相手方にもよりますが、遺産分割協議書があれば、基本的にスムーズに手続できます。
遺産分割協議書を作成するデメリット
遺産分割協議書という法的に必須ではないものを作成するのは手間に感じることでしょう。また、できるだけ正確に作成するためには司法書士や行政書士などの専門家に依頼することが望ましいのですが、その際コストも発生します。
こうしたデメリットも踏まえて、遺産分割協議書の作成について検討しましょう。
手間がかかる
遺産分割協議書には、被相続人に関する情報として「氏名」「本籍」「住所」「亡くなった日」などを記載します。
また、相続人に関する情報も記載しますし、誰がどの財産を取得したのか、各財産をどのような方法で分割したのかを記していきます。
トラブルを防ぎ、作成メリットを最大化するには、詳細に情報を記録していくことが大事です。
しかしそうなると、作成の手間も大きくなってしまいます。
特に以下の点には注意が必要です。
遺産分割協議書の作成で特に注意すべき点 | |
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相続人のうち1名でも欠けていると 協議書の内容全部が無効になる |
遺産分割協議には相続人の全員が参加しないといけない。参加すべき相続人がいないまま協議が進み、協議書が作成されても、無効になってしまう。そのため相続人調査は確実に進め、後から作成し直すという事態を避けなくてはならない。 なお、全員が一堂に会する必要はなく、リモートでの参加であっても最終的に協議内容に対する全員の同意があれば問題ない。 |
相続人全員についての 実印押印と印鑑証明書添付が必須 |
協議に相続人全員が参加したことを示すため、協議書には実印を押印するとともに、印鑑証明書の添付が必要。 リモートで協議を行う場合、実印の押印や印鑑証明書の添付をするために書面を送付するなどの手間が発生する。 |
専門家への依頼にコストがかかる
遺産分割協議書は誰が作成してもかまいません。そのため相続人の1人が協議内容をまとめていけば、基本的には問題ありません。
しかし正確に記載し、その後の相続手続でも問題なく使えるような資料とするには、専門知識が必要になります。そこで、業務としてその作成を行っている司法書士や行政書士、弁護士といった法律系の専門家に頼るケースが多いです。
そうすることで、前項で説明した手間も大きく省くことができるでしょう。
その一方で、コストの問題が出てきてしまいます。具体的な金額は依頼先の専門家により異なります。
しかしながら費用対効果を考慮すると、実際のところ大きなデメリットにはならないとも考えられます。作成の手間がかからなくなりますし、専門家への依頼料を負担するだけで今後のトラブルを起こりにくくできるという利点が得られます。そのため前向きに検討することをおすすめします。
他人に財産の内容を知られてしまう
遺産分割協議書として協議内容を形に残すと、その文書を見た人に、財産の内容を知られてしまう可能性があります。
この点、何ら文書を作成していない場合、「どのような遺産があり、どのような遺産を誰がどれだけ引き継いだのか」といった情報は漏れにくくなります。
しかし遺産分割協議書を見られる可能性は、適切に保管しておくことで下げることができます。また、遺産分割協議書を見られたとしてもそれだけで大きな問題に発展する可能性は低いといえます。
そのためそれほど気にすべきデメリットであるとはいい難いです。
遺産分割協議書は作成すべきか
上述の通り、遺産分割協議書を作成することにはメリットもありますし、デメリットもあります。
作成によるメリットが小さく、デメリットの方が大きいと評価できる場合、作成しないという選択肢も視野に入ってくるでしょう。
しかし各メリット・デメリットを見ていくとわかるように、作成することにこれといった大きな問題が伴うわけではありません。その逆に、作成しないことには様々なリスクが伴います。
そのためほとんどの場合で、遺産分割協議書は作成すべきであるといえます。また作成するときは、公正証書化することが推奨されます。
特に「相続人や親族間の仲が良くない」「遺産分割協議で言い争いが生じた」という場合には後々揉める可能性がないともいえませんので、より確実な作成過程を踏んでおくことが大事です。