自宅や宅地、マンションなどの不動産を持つ方が亡くなったとき、これを承継する相続人は名義変更の手続として登記を行います。このときの登記は「相続登記」と呼ばれたりもします。法律上定義された言葉ではない一般用語であり、要は相続を契機とする不動産登記を意味します。
相続登記は通常登記のプロである司法書士に対応を依頼します。名義変更といっても単なる届出ではなく権利関係が絡む重要な手続であるためです。しかしこの手続を自分だけで対応することも不可能ではありません。
ただ、自分で対応するのであれば手続の内容や必要書類などを把握しなければなりません。ここでその手続や必要書類を紹介するとともに、相続登記を自分でする方が知っておきたい注意点についても紹介していきます。
相続登記を自分でしても違法ではない
相続登記を自分ですることは違法ではありません。自分のことを自分で対応しているだけですし、原則的には自分で対応することだとも説明できます。実際のところは司法書士に依頼するのが一般的にはなっていますが、自分で登記手続を進めても何ら違法ではないのです。
自分で相続登記を行うことで、司法書士に依頼するための費用が不要になり、コストカットできます。依頼先により具体的な金額は異なりますが、数万円から十数万円程度が相場です。この費用をなくせるのは大きなメリットといえるでしょう。
相続登記は義務になる
自分で相続登記をするかどうか以前に、「そもそも相続登記は必要?」という疑問を抱く方もいるのではないでしょうか。2023年の執筆時点において、法的義務はありません。
しかし、2024年4月1日以降は相続登記が義務化されます。相続財産に不動産が含まれているとき、相続人の方は登記申請などの対応をしないといけなくなります。この義務を果たさない場合は10万円以下の過料を課されるおそれがあります。
ただ、相続登記が義務化されてからも「自分で登記をしてはいけない」などとルールが変わることはありません。
相続登記で必要になる作業
相続登記を自分で行う場合、登記対象となっている相続物件について調査し、登記のために必要な書類をすべて集め、法務局で登記申請をするまでのすべてに対応しないといけません。
相続物件の登記内容をチェック
不動産を相続するにあたり、当該物件の調査が必要です。物件が現在どのような状態にあるのか、権利関係はどうなっているのか、詳細まで把握した上で相続をすべきです。
物件の詳細については登記事項証明書で確認できます。法務局で発行してもらうことが可能です。地番や家屋番号、地目、所有者等の記載内容をチェックし、認識していた物件情報とずれがないかを見ておきましょう。特に、被相続人が登記名義人になっていることの確認は必須です。
必要書類の作成・取得
相続登記に必要な書類は多岐にわたります。次に挙げる書類を準備しましょう。
なお、相続時の状況によって準備すべきものが異なりますので要注意です。
- 登記申請書
- 法務局HP等からダウンロードし、必要事項を記入する。
- 登記事項証明書
- 登記申請書への記載事項の情報源として活用する。
- 遺産分割協議書
- 複数の相続人がいる場合、遺産分割協議書により自分が取得したことを示す。相続人全員の押印および印鑑証明書も用意する。
- 遺言書
- 遺言内容に従い不動産を取得したときに必要。
- 被相続人の戸籍謄本等
- 被相続人の出生から死亡までの一連の戸籍謄本等をすべて取得する。戸籍情報により、自分が相続人であることを示す。
- 被相続人の住民票の除票
- 登記簿に記載されている住所、本籍地が示せるものを用意。
- 固定資産評価証明書
- 登記申請で負担する登録免許税の計算で使用する。
- 相続人の戸籍謄本と住民票
- 新たに名義人となる方の住民票と、相続人全員の戸籍謄本を準備する。
- 相続人全員の印鑑証明書
- 相続人が1人である場合、調停調書がある場合などでは不要。
登記申請の手続
必要書類を漏れなく集めて法務局に提出します。提出先は取得する物件の住所を管轄とする法務局です。作成した登記申請書のほか、さまざまな添付書類を提出して申請を行います。
なお、登記申請のときに費用の支払いもしないといけません。
登録免許税が発生するのですが、その額は物件の価値により異なります。厳密には「固定資産税評価額の0.4%」が登録免許税の額となります。
※1,000円未満は切り捨てる。
その額に対応する収入印紙を購入。申請書に貼付します。
相続登記を自分でするときの注意点
相続登記を自分でするときに注意すべき点を次項以下に挙げていきます。
書類の不備
相続登記をするためには多数の書類を集めなければならず、登記申請書の作成なども必要です。必要な書類が集められていなかったり、適切に書類が作成されていなかったりすると、当然、登記申請はできません。
手続にミスがあることで余計な時間をかけてしまい、余計な労力もかけてしまいます。登記申請がスムーズにできず時間がかかってしまうと、権利関係をめぐるトラブルが起こりやすくなりますし、その他の相続手続が遅れてしまうなどの問題も起こり得ます。
費用をゼロにはできない
相続登記を自分で対応するからといって、すべての費用がゼロになるわけではありません。
コストカットできるのは司法書士への依頼費用のみであり、各種書類の発行にかかる費用や、登録免許税などの費用は自分で負担しないといけません。
登記ミスのリスクを理解しておく
自分で手続をする場合、ミスが起こる可能性が高くなります。そこで、登記に関するミスがどのようなリスクを引き起こすのかについても理解しておくことが望ましいです。
登記申請でミスがあった場合に考えられるもっとも大きなリスクは、権利の主張ができなくなるということです。不動産の所有者であることを登記で示すことが重要であるところ、これができなくなることにより、最悪その物件を失うことにつながるかもしれません。
また、正しく名義変更ができていないことで、当該物件を売却したくなっても買い手がつきにくくなってしまいます。
こういったリスクがあることを認識し、費用をカットしてでも自分で対応すべきかどうか、費用をかけて確実に手続を進めてもらうかの判断をしましょう。
司法書士に相続登記を任せるメリット
自分で相続登記をすることのメリットは、やはり「費用が少なくて済む」という点にあります。
一方、司法書士に相続登記を任せることのメリットとしては次のような事柄を挙げることができます。
- 時間や手間をかける必要がなくなる
- 司法書士に登記の代行を依頼することで、必要書類の準備から任せることができる。平日に自ら役所に出向いて書類集めに時間を割く必要がない。相続登記のやり方を調べたり、必要書類の内容を調べたりする苦労も必要なくなる。
- 不備が起こりにくくなる
- 書類の不備があった場合、修正などの作業が発生するが、司法書士に頼むことでミスは起こりにくくなる。また、ミスがあったとしても修正作業を依頼主が対応しなくても良い。さらに、登記が正しく行えないことにより起こるリスクも避けやすくなる。
- 相続関連の相談ができる
- 司法書士との繋がりを持っておくことで、相続登記以外の疑問点が出たとしても、迅速に対応することができる。追加で依頼を出す場合には費用が発生するが、いつでも相談できる状態を作っておくことで安心して各種手続に取り組むことが可能となる。
ただし、これらメリットを最大限活かすためには相続に強い司法書士を探すことが大事です。まずはアポを取り、相談を通して、信頼できる専門家かどうかを見極めるようにしましょう。